2008年 11月 02日
ACC21の中国四川大地震募金による |
『武都保護地区 移動映画館事業』現地視察報告
ACC21 ボランティア・スタッフ
李 天舒(リ・テンショ)
2008年11月2日
2008年9月、大地震の被災地である四川省を訪問し、アジア・コミュニティ・センター21 (ACC21)の支援事業である被災者保護地区(救援センター)の「移動映画館事業」を視察してきました。5月12日の大震災から数えて、ほぼ4ヵ月目を迎えた現地の様子を報告します。
■NGO被災者救援センター訪問
四川省の省都である成都市に到着した翌日の9月9日、今回の事業の企画・実施を担当した中国現地のNGO、「NGO被災者救援センター」成都事務所を訪問しました。このNGO被災者救援センターは中国国際民間組織合作促進会(CANGO=カンゴ)のメンバー団体でもあり、被災地の近くの武都保護地区に活動支部があります。成都事務所は成都市青羊区清江東路のマンションに立地し、スタッフは全員20代の若者です。事務総長の張国遠さんが最年長で29歳、地方公務員を経験した後、NGO事業を始めたとのことでした。
当日、私は張国遠さん、および「コミュニティ映画館・移動映画館事業」の担当者である事業部副主任の張偉さんと面談し、2日後、当事業が実施されている綿竹市の漢旺被災者保護地区へ行くことになりました。
11日、成都市都心部から5時間程度のバスで、綿竹市漢旺鎮武都村のプレハブ住宅が並ぶ被災者保護地区に着きました。この保護地区には今も3万人以上の被災者が住んでいて、今回の地震で被災した人たちの最も大きな保護地区だそうです。震災直後の緊急救援時は20人近くのボランティアが活動していたそうです。
しかし、4ヵ月後の現在、緊急救助活動はすでに一段落し、被災者たちの生活もほぼ安定し、震災後の次の段階である再建事業計画はまだ企画・募金段階にある状況なので、人手はあまり必要としないため、事務所はひっそりとしていました。私が訪問した日には、この事業本部事務所では、常駐スタッフ1人と拾った猫1匹、図書室担当の1人、そして非常駐の責任者である張偉さんの3人が出迎えてくれました。
■緊急支援段階後の新たな問題
大変印象深かったのは、震災後すでに4ヵ月経ったためか、被災者の生活は想像よりはるかに安定していたことです。プレハブ住宅とはいえ、中国の一般の農村より清潔感があって、電気や水の使用は全く問題ありません。さらに、道沿いでは現地の人々は普通に商売をしていて、食べ物や日用品などはお金さえあれば何でも入手できます。張偉さんの話によると、この保護地区の排水はまだ整備されてないので、2週間前大雨で大変なことになったそうです。だから、被災者たちは現在、自発的に住宅区内の排水路の工事を進めているところだそうです。
そうすると、このまま放っておいても住民が自主的に地域を再建していくのではないか、と考えがちですが、現地で長期間働いている張偉さんや活動拠点に常駐している胥波さんの話によると、実はそうでもないそうです。確かに世界中からたくさんの金銭的・物資的支援が来ていましたので、餓死する恐れはなくなったとはいえ、これまでの生活基盤は全部破壊されてしまったのです。政府から毎月1人あたり人民元200元(3,000円程度)の補助金がありますが、これだけでは現地で必要最低限の生活しか維持できません。それ以上に重要な問題は、毎日の仕事が無いので、大震災で家族や親類、親友を失った苦しみばかり思い出し、将来に対する無力感と絶望感で、非常に不安定な精神状態になってしまっていることです。このままでは、社会的に不安な問題も出てくる恐れがあるほどだった、と張偉さんは話していました。
■被災者の心のケア
もしも今すぐ現地の生産的な生活基盤を再建するのが不可能なのであれば、少なくとも被災者たちの不安な精神状態を少しでも癒すために、映画上映や懇親会などのイベントを通じて被災者たちに交流の場を提供することが必要になります。ここで、今回のACC21による支援事業である、「コミュニティ映画館」や「移動映画館」の必要性につながるのです。
このような被災地において必要なのは、物資や食料だけではありません。最低限の生活のインフラが確保された後には、被災者の「心のケア」が大変重要になってきます。
しかし、被災地での映画やビデオの上映の意義は、それだけではありません。NGO本部の担当者の説明によると、こういう事業の目的は3つあります:①被災者の日常生活を豊かにするため、②科学・健康・防災知識の普及のため、③被災者の自作自演の文芸大会を企画・支援するためです。つまり、教育と娯楽と心のケア、さらに前向きな被災者同士の交流の場が提供できるわけです。
センターの中に設置された図書室も、被災者のいこいと学習の場を提供しています。
■映画上映の様子
映画上映は戸外のオープン・スペースで行われるので、晴れた夜しかできません。視察した11日は夕方から曇っていましたが、幸いなことに夜になってもほとんど雨が降りませんでした。現地の村民のボランティアたちによって映画の宣伝ポスターが作成され、午後にはそのポスターが道沿いに数枚張られていました。夜7時半くらいから、張さんや胥さんたちが映画の上映設備を準備し始め、8時近くなると近隣の住民たちが集まってきました。夕方から天気がよくなかったということと、政府のマーケット建設による土地徴用で映画上映の場所が数日前に移動したばかりということがあいまって、人数は予想より少なかったのですが、参加した住民はみな映画を楽しんでいました。
昼間一緒に少し遊んでいた子供は私の前で石の上に座って、背中を私のひざもとに寄せて、じっくり見ていました。
被災直後には、映画は固定された場所(綿竹新生保護地区)だけで上映されていました。この綿竹新生保護地区には、当時、被災者約37,000人が住んでいて、毎日映画を上映していたそうです。観客は主に漢旺・清平・天池郷からの被災者で、毎回約300~500人が参加したそうです。そして、映画館まで足を運べない老人や子どもたちのために、移動映画の上映が開始されました。漢旺・清平・天池郷の3つの地区で毎月1回、毎回300~500人の現地の被災者が観ていたとのことでした。当初、移動映画上映は交通の不便さや設備輸送費などがかさむためになかなか開催できず、その回数を増やすために、NGO被災者救援センターは費用をカバーする出資者を心待ちにしていたそうです。被災者は、ACC21が多くの日本人からの寄付を募り、緊急支援として送金してくれたことに、大変喜んだそうです。
担当者の説明によると、これまでに上映された映画は、例えば、『黄飛鴻』・『唐伯虎点秋香』・『大内密探』などのアクションとコメディー、および『科学的農法による耕作』、『農村地域の生物の生態と養殖』、『災害後の疫病の予防と治療』などの科学教育ビデオなどだそうです。
移動映画館での映画上映を見た夜は、張さん、胥さん、猫と一緒に、サウジアラビアが寄付したテントの中で一泊し、翌日の朝、成都へ帰りました。
ちなみに、現在NGO被災者救援センターでは、被災者たちの生産的生活が再開できるように、「コミュニティ・センター」と「綿竹生物生態ハウスおよび郷村旅行示範村」という2つの事業を企画・募金しているそうです。四川大地震被災地へのこれまでのご寄付に心から感謝するとともに、今後も日本の皆様からのご支援・ご協力をお願いしたい、とのことでした。また、CANGO副理事長兼秘書長である黄浩明さんからも、日本の寄付者の皆様にくれぐれもよろしく、とのことでした。 (終わり)
※李 天舒さんは東京大学大学院にて経済学を専攻する中国遼寧省瀋陽市出身の留学生です。ACC21のボランティア・スタッフとして四川大地震緊急・復興支援募金活動に参加。中国から送られてくる文書や報告書などの翻訳のほか、6月に(財)日本青年館で行ったチャリティ・コンサートでは他の中国人ボランティアや日本人ボランティアとともに募金協力に活躍。今回は、現地訪問をして、報告にまとめていただきました。----ACC21事務局
by ACC21-Sichuanfund
| 2008-11-02 15:40
| 現地からの報告(11月)